へきてからもはや、二十年の月日はすぎた、かれは温厚《おんこう》のひとでかつ義侠心《ぎきょうしん》が強いところから、日本を代表する名誉《めいよ》の紳士《しんし》として、一般の尊敬《そんけい》をうけている。その子の富士男はことし十五歳、学校はいつも優等《ゆうとう》であるうえに、活発《かっぱつ》で明るく、年少者に対してはとくに慈愛《じあい》が深いところから、全校生徒が心服《しんぷく》している。弟の次郎はやっと十歳で、こっけいなことといたずらがすきであるが、船が本土をはなれてから急にだまりこんで、ちがった人のようになった。
このふたりの兄弟を主人として、忠実につかえているのは、モコウという黒人の子である。モコウは両親もなき孤児《こじ》で船のコックになったり、労役《ろうえき》の奴隷《どれい》になったりしていたが、富士男の父に救われてから幸福な月日をおくっている。
ところが人心《じんしん》はその面のごとし、十人よれば十人ともその心が同一でない、同じ友だちのドノバンは、なにからなにまで、富士男に反対であった。日本のことばにアマノジャクというのがある、他人が白といえば黒といったり、他人が右へいこう
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