みにないはずだ」
「とめやしないが、ボートをおろすのはかってだが、きみらだけ上陸して、ほかの少年をすてる気ではあるまいね」
「むろんすてやしないよ、ぼくらが上陸してからだれかひとり、ボートをここへこぎもどして、つぎの人を運《はこ》ぶつもりだ」
「それならまず第一に、いちばん年の少ない人たちから上陸さしてくれたまえ」
「それまでは干渉《かんしょう》されたくないよ、小さい人たちを上陸さしたのでは役にたたない、まずぼくが先にいって陸地を探検《たんけん》する」
「それはあまりに利己主義《りこしゅぎ》だ、おさない人たちを先に救うのは、人道《じんどう》じゃないか」
「人道とはなんだ」
 ドノバンはかっとなってつめよった。へいそなにごともドノバンにゆずっている富士男も、ドノバンの幼年者に対する無慈悲《むじひ》な挙動《きょどう》を見ると、心の底から憤怒《ふんぬ》のほのおがもえあがった。
「きみはぼくのいうところがわからんのか」
 富士男はしっかりと腰《こし》をすえて、ドノバンが手を出すが最後、電光石火に、甲板《かんぱん》の上にたたきのめしてやろうと身がまえた。
「待ってくれ待ってくれ、ドノバン、きみは
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