悪いぞ、ボートは幼年者のものだ、年長者はいかなるばあいにも、年少者のぎせいにならねばならぬとは、昔からの紳士道《しんしどう》じゃないか」
ゴルドンはこういって、ドノバンを制《せい》した。そうして富士男を片すみにひいてゆきながらささやいた。
「きみ、ボートは危険《きけん》だ、あれを見たまえ、潮《しお》はひいたが暗礁《あんしょう》だらけだ、あれにかかるとボートはこなみじんになってしまうぞ」
「そうだ」
富士男はがっかりしていった。
「このうえはただ一つの策《さく》があるばかりだ」
「どうすればいいか」
ゴルドンは心配そうに富士男の顔をみつめた。
「だれかひとり、綱《つな》を持ってむこうの岸へ泳ぎつき、船と岸の岩に綱を張り渡すんだ、それから、年長者は一人ずつ幼年者をだいて、片手に綱をたどりながら岸へ泳ぎつくんだ」
「なるほど、それよりほかに方法がないね」
「では、そういうことにきめるか」
「だが、だれが第一番に綱を持って、むこうへ泳ぎつくか」
「むろんぼくだ」
富士男は快然《かいぜん》として自分の胸をたたいた。
「きみが?」
ゴルドンの眼はきらきらとかがやいたが、やがて熱《あつ》い
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