て、左舷《さげん》はがっくりと水に頭をひたした。
「だめだ」
黒少年モコウはあわただしくさけんだ。それと同時に船首《せんしゅ》のほうに立った仏国少年バクスターの口から、大きなさけびがおこった。
「しめたッ」
だめという声と、しめたという声! 人々はなんのことだかわからなかった。
「ボートがあるよ」
バクスターはふたたびさけんだ。
「ボート?」
少年たちの眼は急にいきかえった。かれらは一度に船首に走った。
「あれ! あれだ」
いかにもバクスターのいうごとく、海水にあらいさられたと思った一せきのボートは、みよしのささえ柱のあいだにやっとはさまってぶらさがっていた。
「もうしめたぞ」
いままで沈黙《ちんもく》していたドノバンは、まっさきにボートのほうへ走った。イルコック、ウエップ、グロースの三人はそれにつづいた。四人はえいえい声をあわしてボートを海上におろそうとした。
「それをどうするつもりか」
と富士男は声をかけた。
「何をしたっていいじゃないか」
とドノバンはふたたびけんかごしにいった。
「きみらはボートをおろすつもりなのか」
「そうだ、だがそれをとめる権利《けんり》はき
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