かすかに富士男を求めよぶおおぜいの声が、風に送られてきこえる。
「みんなは、悪漢どもが島に滞在《たいざい》していることを知らないのだ。凶悪無残《きょうあくむざん》な海蛇《うみへび》ら! かれらはどんな惨虐《さんぎゃく》な行為を一同の上に加えるだろう、早く告《つ》げなければならない、どうあっても死なれない。おれは重大な責任《せきにん》をせおってるのだ」
 こう思うと富士男は、心の底からぼつぜんとつきあげてくる力を感じた。
 と、ただ一色の墨《すみ》にぬりつぶされたような下界が切れて、ぽっかり一面に白いものがひろがった。
「ああ、水だ、助かるのはいまだ!」
 水の深さも、岸への距離《きょり》も、なにも考えるひまもなく、富士男はつりかごをけって身をおどらした。水煙がとびちって、富士男のからだは底深くしずんだ。湖はなにもなかったようにもとのしずかさにかえった、大きな波紋がゆっくりゆっくり、輪《わ》をひろげてゆくばかりである。身軽になったのを喜ぶように、たこはふたたび空高くまいあがり、北東のやみにとびさった。
 まもなく富士男の頭が、水面に浮かんだ。かれは立ち泳ぎをしながら、のみこんだ水をはきだ
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