次郎が悲痛《ひつう》な声でさけんだ。
危機《きき》
旋風《せんぷう》にあおられたたこは、つりかごを前後左右にかたむけゆりあげて、黒闇々《こくあんあん》のなかを飛んでゆく。はげしい動揺《どうよう》のために富士男は眼のくらむのをおぼえた。かれは必死《ひっし》の思いで綱《つな》をしっかりとにぎった。
「あわててはいけない」
気をしずめるために深くひといきすって、腹にぐんと力をいれた。どうやら心がおちつきをとりもどした。
たこは一上一下して、しだいに地上に落ちてゆくように思えた。
「しめた!」
地上五、六メートルの上からなら、飛びおりても死ぬようなことはない、こう思うとホッと、不安のうちにも助かる希望がわいた。かれは眼を皿のようにして飛びおりる場所を発見しようとあせった。だが、星影まばらな光の下では、かっこうの場所はさがしうべくもない。
「だめかな」
一しゅんにして希望の岡から、失望の底につきおとさるる。ゴルドンの穏和《おんわ》な顔、モコウの白い歯、次郎の悲嘆《ひたん》にくるる顔、そしてなつかしい父母の顔、いろいろの顔が走馬燈《そうまとう》のように明滅《めいめつ》する。
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