はできた。富士男とモコウはおのおの一個の銃と、ひとふりの腰刀《こしがたな》をおびて、一同に送られた。
「用心してくれたまえ」
「ああ、だいじょうぶだよ」
 天はおぼろにかすんで星の光があわい。黒々ともりあがった林を二つにわって、白銀の川が二勇士をむかえた。風は順風《じゅんぷう》、舵手《だしゅ》は名手、帆は風をはらんでボートは矢のようにすすんだ。またたくまに平和湖に到着した。このとき、風はまったく死にたえて、帆の力をかりることができない。
「風がなくなった」
 とモコウが落胆《らくたん》した。
「ふたりでこげばだいじょうぶだ」
 と富士男がいった。
 湖岸にそってふたりは、力かぎりこぎすすんだ。寂然《じゃくぜん》とした湖、林には鳥の声もきかず、ただ、烈々《れつれつ》たる友情を乗せて水をかくかいの音が、さびしくひびくばかりである。
 ボートは東川の口についた。これからは流れにまかせればいいのだ。
「モコウ、たのむよ」
 と、富士男が小声でいった。モコウはうなずいてさおをあやつった。数町ばかりくだったころ、へさきに立ったモコウが、ころぶようにともの富士男の手をとった。
「富士男さま、火が、火
前へ 次へ
全254ページ中164ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング