「待ってくれたまえ」と富士男は、少年どもの中へわってはいった。
「そんな無謀《むぼう》なことをしてもしものことがあったらどうするか」
「だいじょうぶだ、ぼくは三キロぐらいは平気《へいき》だから」とドノバンがいった。
「きみはだいじょうぶでも、ほかの人たちはそうはいかんよ、君にしたところでたいせつなからだだ、つまらない冒険《ぼうけん》はおたがいにつつしもうじゃないか」
「だが、向こうへ泳ぐくらいは冒険《ぼうけん》じゃないよ」
「ドノバン! きみにはご両親がある、祖国がある、自重《じちょう》してくれたまえ」
「だがこのままにしたところで、船はだんだんかたむくばかりじゃないか、だまって沈没《ちんぼつ》を待つのか」
「そうじゃないよ、いますこしたてば干潮《かんちょう》になる、潮が引けばあるいはこのへんが浅くなり、徒歩《とほ》で岸までゆけるかもしらん、それまで待つことにしようじゃないか」
「潮《しお》が引かなかったらどうするか」
「そのときには別に考えることにしよう」
「そんな気の長い話はいやだ」
 ドノバンはおそろしいけんまくで、富士男の説に反対した。がんらいドノバンはいかなるばあいにおい
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