きょうふ》の夜が、明けようとしている。
「助かったぞ」
とドノバンが立ちあがった。一同は未明の微光《びこう》のなかに思わず顔を見あわせた。
「だがぼくらは人間の務《つと》めをおこたった」
ドノバンがかなしそうにいった。
「ぼくらは自分のことばかり考えた、ぼくらは助かることができたが、あの死体はどうなったろうか」
一同は頭をたれた。はたしてあの死体はこときれていたのだろうか、あるいはなお一るの気息《きそく》が通っていたのではなかろうか、自分らはそれをたしかめもせず、ただおそろしさのために、人間の本分をおこたった、慚愧《ざんき》の念が心をかんだ。
「そうだ。ぼくらは卑怯《ひきょう》だった」
「はずかしい行為をした」
断雲《だんうん》は低くたれて、奔馬《ほんば》のごとくとびきたり、とびさる、まだ勢《いきお》いのおとろえない風のなかを、四人はたがいに腕をくんで浜辺に出た。
ボートのありかはすぐに見つかった。だが、二個の死体はどこにも見あたらなかった。
「潮に流されたのだ」
ドノバンが悲しそうにいった。
「かわいそうに……ぼくらが卑怯《ひきょう》だったために、ふたりを見殺しにしたのだ
前へ
次へ
全254ページ中141ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング