。
「待て待て」
富士男はナイフを出して帆綱《ほづな》を切った。
「ああ、ありがとう」
モコウは富士男の手をかたくにぎったが、あとは感謝《かんしゃ》の涙にむせんだ。
ふたりはハンドルの下に帰った、だが嵐《あらし》はいつやむであろうか。
南半球の三月は北半球の九月である。夜が明けるのは五時ごろになる。
「夜が明けたらなんとかなるだろう」
少年たちの希望はただこれである、荒れに荒れくるう黒暗々《こくあんあん》の東のほうに、やがて一|曳《えい》の微明《びめい》がただよいだした。
「おう、夜が明けた」
一同が歓喜《かんき》の声をあげた。あかつきの色はしだいに青白くなり、ばら色になり、雲のすきますきまが明るくなると、はやてに吹きとばされるちぎれ雲は、矢よりもはやく見える。
だが第二の失望《しつぼう》がきた。夜は明けたが濃霧《のうむ》が煙幕《えんまく》のごとくとざして、一寸先も見えない、むろん陸地の影など、見分くべくもない。しかもいぜんとして風はやまぬ。
四人の少年はぼうぜんとして甲板《かんぱん》に立った。かれらはいよいよ絶望《ぜつぼう》の期がせまったと自覚《じかく》した。
その
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