くらの手にまかしているのだ。それにぼくらはかれらを救う道具を見いだしえない。じつに情けないことだ。ぼくらは自分の責任に対してまったくすまないと思う」
「いかにもそうだ」とゴルドンも嘆息《たんそく》して、「しかしそれはぼくらの力でどうすることもできないことだ、しずかに運命を待とうじゃないか、きみの憂欝《ゆううつ》な顔をかれらに見せてくれるなよ、かれらはきみをなにより信頼してるんだから」
「それについてぼくはきみに相談がある。ぼくらはこの土地を絶海の孤島と認定してしまったが、まだぼくらの探検しつくさない方面がある、それは東の方だ、ぼくは念のために東方を探検したいと思うがどうだろう、あるいは東のほうに陸地の影を見いだすかもしれぬからな」
「きみがそういうならぼくも異議《いぎ》はないよ。五、六人の探検隊を組織《そしき》していってくれたまえ」
「いや、五、六人は多すぎる。ぼくはボートでもって平和湖を横ぎろうと思うのだ、ボートはふたりでたくさんだ、おおぜいでゆくとボートがせますぎるから」
「それは妙案《みょうあん》だ、きみはだれをつれてゆくつもりか」
「モコウだ、かれはボートをこぐことが名人だ、地図で見ると六、七マイルのむこうに一|条《じょう》の川がある。この川は東の海にそそぐことになっている」
「よし、それじゃそうしたまえ、だがふたりきりでは不便《ふべん》だからいまひとりぐらい増したらどうか」

「けっこう、じゃぼくの弟次郎をつれてゆきたい」
「次郎君か? あんまりちいさいから、かえってじゃまになりゃせんか」
「いや、ぼくには別に考えがある。次郎は国を出てから急に沈鬱《ちんうつ》になって、しじゅうなにか考えこんでいるのはどうもへんだと思う、このばあいぼくはかれにそのことをたずねてみたいと思う」
「次郎君のことはぼくも気にかかっていた、きみがそうしてくれれば非常につごうがよい」
その日の夕飯時に、ゴルドンは富士男、モコウ、次郎を遠征に派遣《はけん》するむねを一同に語った。一同はことごとく賛成したが、ひとりドノバンは不服《ふふく》をいいだした。
「それではこの遠征は、少年連盟の公用のためでなく、富士男君の私用のためなのかね」
「そんな誤解《ごかい》をしちゃいかんよ、たった三人で遠征にでかけるのは、ひっきょう一同のために東方に陸地があるやいなやを探検のためじゃないか、きみは富士男君に対してそんな誤解《ごかい》をするのは紳士《しんし》としてはずべきことだよ」
 ゴルドンはすこしくことばをあらげてドノバンを責めた。ドノバンはだまって室を出ていった。
 翌日富士男はモコウと次郎をつれてボートに乗り、一同にしばしの別れを告げた。
 いま富士男がしるした日記の一節を左に紹介《しょうかい》する。

 二月四日[#「二月四日」に白丸傍点] 朝八時ぼくは次郎とモコウをしたがえて一同に別れを告げた。ニュージーランド川より平和湖へこぎだすに、この日天気|晴朗《せいろう》、南西の風そよそよと吹いてボートの走ること矢のごとし。
 ふりかえって見ると湖のほとりに立っている諸友の影はだんだん小さくなり、棒《ぼう》の先に帽子をのせてふっているのはゴルドンらしい、大きな声でさけんでいるのはサービスだろうか。それすらもう水煙|微茫《びぼう》の間に見えなくなって、オークランド岡のいただきも地平線の下にしずんでしまった。
 十時前後から風ようやく小やみになって、正午には風まったくなくなった。帆をおろして三人は昼食を食べた。それからモコウとぼくがオールをとり、次郎にかじをとらして、さらに北東にこいでゆくと、四時になってはじめて東岸の森が低く水上に浮かびでるのを見た。
 湖の面《おもて》はガラスのごとくたいらかで、水はなんともいえぬほどすんでいる。十五、六尺下にしげっている水底の植物と、これらの植物のあいだを群れゆく無数の魚は手にとるごとく見える。
 午後六時にボートは東岸の丘についた、そこはちょうど川口になっているので、山田先生の地図にある川はこれだとわかった。ぼくはこれに名をつけた。
「東川」
 この夜はボートを岸につないで三人は露宿《ろじゅく》した。
 五日[#「五日」に白丸傍点] 朝六時に起きふたたびボートにあがりただちに川にこぎいれた。ちょうど退《ひ》き潮《しお》のときだからボートはおもしろいように流れをくだって、モコウがひとりオールをもって両岸の岩につきあたらないようにするだけであった。
 ぼくはともにすわって両岸をながめゆくに、つつみの上には一面に樹木が密生し、そのなかにまつとかしわがもっとも多かった。これらの樹木のなかにその枝あたかもかさのごとく四方にひろがり、ていていとしてひいでたる樹を発見した。その枝には長さ四、五寸の円すい形の実がぶらりぶらりたれてある。ぼくはゴ
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