てきた板をもってつくり、屋根は松やにを塗《ぬ》った油布《あぶらぬの》をもっておおい、小舎の周囲には森からきりだした棒杭《ぼうぐい》をうちこんで柵《さく》とした。
小舎のなかにはゴルドンらがとらえてきたもののほか、新たにおとし穴でとらえたラマ一頭と、バクスターがイルコックとともに飛び弾《だま》で生けどった牝牡《めすおす》二頭のヴィクンヤがいた。
ゴルドンは一同に飛び弾の練習をさせたが、バクスターとイルコックがもっともじょうずになった。
その他、別に養禽場《ようきんじょう》一|棟《むね》を建てた。そこにはしちめんちょう、野がん、ほろほろちょう、きじの類をとらえしだいにはなちがいにした。このほうの係は善金《ゼンキン》と伊孫《イーソン》その他最年少組で、かれらは喜んでこれをひきうけた。
ところがひとりこまったのは、モコウである、まず生《なま》の乳汁《ちち》が飲めるようになり、家禽《かきん》が毎日卵を生む、これほどけっこうなことはないのだが、さて一|得《とく》あれば一|失《しつ》ありで、乳汁や卵ができると急に砂糖の需要《じゅよう》がはげしくなる、貯蓄の砂糖が見る見るへってゆくのを見ると、モコウはたまらなく心細くなる、さればとてみなにうまいものを食べさせて、その喜ぶ顔を見るのが、モコウの第一の楽しみなのである。
ところが、この心配《しんぱい》もモコウの頭からきえるときがきた。ゴルドンはある日、だちょうの森を散歩したとき、一むらの木のその葉、うすむらさきの色をなせるのを見ておどりあがって喜んだ。それは砂糖の木であった。一同はこの木の幹《みき》をきって、そのきり目からふきだすところの液《えき》をあつめて、それを煮つめると、なべの底に砂糖のかたまりがのこった。その味は甘蔗《かんしょ》からとったものにはおとるが、料理に使うには十分である。
砂糖がどんどんできる、酒もできる、ただたりないのは野菜《やさい》だけである。
だがそのかわりに肉類は十分になった、富士男ドノバンらは三日のうちに、森のなかで、五十余頭のきつねをとったので、りっぱなきつねの毛皮は冬の外套用《がいとうよう》としてたくわえられた。それからまもなく少年連盟は総動員《そうどういん》をもって海ひょう狩りの遠征を挙行《きょこう》した。
海ひょう狩りの目的は、サクラ湾に群棲《ぐんせい》する海ひょうをとって、その油をとることにあった。じっさい洞窟内《どうくつない》のもっともなやみとするところは、夜間の燈火が不十分なことである。
全員十五名、場所はすでにいくどもゆきなれた、サクラ湾である、路程《ろてい》は遠からず、危険のおそれがないので、年少組までのこらずつれてゆくことにした。ひさしぶりの遠征に、年少連は夜が明けるのも待ちかねて、小いぬのようにとんだり、走ったり、海ひょう狩りの壮快な気分にようていた。
夜はほのぼのと明けて、太陽の光が東の天に金蛇《きんだ》を走らしたころに、一同は身軽に旅装《りょそう》をととのえた。バクスターが苦心してつくった車に、ガーネットとサービスが、かいならした二頭のラマをつけ、車の上には硝薬《しょうやく》、食料、鉄の大なべ、数個のあきだるをのせ、勇みに勇んで左門洞を出た。
風あたたかに空は晴れて、洋々たる春の平野を少年連盟はしゅくしゅくとしてねってゆく。とちゅうでドールとコスターはつかれて歩けなくなったので、富士男はゴルドンに相談して、ふたりを車の上に乗せた。一行が沼のほとりをたどってゆくと、とつぜん一個の巨獣《きょじゅう》が、がさがさと音をたてて、灌木林《かんぼくばやし》のなかへ身をひそめた。
「なんだろう」
一同は立ちどまった。
「かばだ」
とゴルドンがいった。
「昼寝《ひるね》をじゃましてすまなかった」
と富士男はいった。
サクラ湾についたのは十時ごろである。河畔《かはん》の木陰にテントを張ってはるかに浜辺をみわたせば、水波びょうびょうとして天に接し、眼界の及ぶかぎり一片の帆影《ほかげ》も見えぬ、遠い波は青螺《せいら》のごとくおだやかに、近い波はしずかな風におくられて、ところどころに突出した岩礁《がんしょう》におどりあがりまいあがり、さらさらとひいてはまたぞろぞろとたわむれている。
その岩礁の上に! 見よ! 幾百とも知れぬ海ひょうが、うららかな春の日に腹をほして、あおむけに寝ころんだり、たがいにだきあってはころげおちたり、追いかけごっこをしてはかみあったり、なにかにおどろいたように首をあげては走って、波にとびこんだりしている。
一同はかれらをおどろかさぬように、木陰にかくれて昼飯をすまし、それから思い思いの身支度《みじたく》にとりかかった。
年少組の善金《ゼンキン》、伊孫《イーソン》、次郎、ドール、コスターは、モコウとともに、テント
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