めてはならん」
「むろんそうだ」
「そこでわれわれはこの冬ごもりのあいだに、日課《にっか》を定めて勉強したいと思うがどうだろう」
「賛成賛成、ぼくもそれを考えていたところだよ、すぐに実行しよう、それにはなにか方法があるかね」
 富士男は一枚の原稿《げんこう》を、ゴルドンの前においた。それには十五少年の学級と、受け持ち教導者《きょうどうしゃ》などがしるされてあった。
[#ここから1字下げ]
十歳組――第一級
 次郎(日)
 ドール(伊)
 コスター(伊)
十一歳組――第二級
 善金《ゼンキン》(支)
 伊孫《イーソン》(支)
十四歳組――第三級
 ウエップ(独)
 ガーネット(仏)
 サービス(仏)
 バクスター(仏)
 モコウ(印)
十五歳――第四級
 イルコック(独)
 ドノバン(米)
 グロース(米)
 富士男(日)
[#ここで字下げ終わり]
 以上十四名とし、第四級員は第三級に教え、第三級員は第二級に教え、第二級員は第一級に教え、順次《じゅんじ》に下級の教導《きょうどう》を受け持つこと。

 ゴルドンはつくづくとこの原稿をひらき見て、首をかしげていたがやがてこういった。
「これにはぼくの役割《やくわり》がないが、ぼくはどうなるのか」
「きみは首領《しゅりょう》だから学級の総監督《そうかんとく》をすればいいのだ」
「それはいかん、ぼくもみなと同じく学生だ。首領だからといって、学問をやめることはできない。人間は死ぬまで学生だと昔の人がいった。ぼくも仲間にいれてくれたまえ」
「なるほど、それではきみひとりが第五級だ」
「なぜだ」
「きみは十六歳で最年長者だから」
「そうか」
 けんそんなゴルドンも年齢《ねんれい》を減《へ》らすことができないので、第五級の生徒となることにきまった。
 ゴルドンはこのことを一同に相談すると、だれしも異議《いぎ》のあるべきはずがない。一同は喜びにあふれて、その他のいろいろな規律《きりつ》をきめた。毎週二度、木曜と日曜には討論会《とうろんかい》を開いて、歴史や科学および修身の題目をとらえて議論をたたかわすこと、風なき日には湖畔《こはん》を散歩し、あるいはランニングの競争をやること、などもきめた。
 かかる孤島《ことう》にあってもっともたいせつなことは、時間の精確《せいかく》である。そこで、イルコックとバクスターは時計|係《がかり》となり、ウエップは寒暖計《かんだんけい》晴雨計《せいうけい》の主任《しゅにん》となり、一同の身神《しんしん》をなぐさむるためにガーネットは音楽の主任となって、ハーモニカを鳴らすこととなった。
 こういう余興係《よきょうがかり》には、いたずらずきの次郎がまっさきにひきうけねばならぬはずだが、次郎はなぜかいぜんとして沈欝《ちんうつ》な顔をしているので、他の人々もしいてすすめなかった。
 六月の下旬《げじゅん》になると寒暖計はしだいにくだって、零点以下《れいてんいか》十度ないし十二度のあいだを上下するようになったが、しかし洞内《どうない》にはまきの貯蓄《ちょちく》が十分であったから、さまでの苦しみもなかった。
 が、ここに一つの難事が出来《しゅったい》した、それは雪が深くなるにつれて、年少組は川へ水をくみにゆくことができなくなったことである。ゴルドンは思案《しあん》にあまって、まず第一に工学博士に相談をした。少年たちはたわむれにバクスターに、工学博士の称《しょう》をたてまつったのである。
「よしよし考えてみよう」
 バクスターは研究に研究をかさねた結果、地中に管《くだ》をうずめて、川から水をひくことにした。かれはサクラ号の浴室にそなえてあった、鉛管《えんかん》を利用した。
 つぎにモコウは、一生けんめいに動物やさかなの料理をするたびに、その脂肪《しぼう》を貯蓄したので、燈火の油に不足の心配はなくなった。
 しかしただ心配なのは食料の欠乏である、雪が吹きすさんで猟《りょう》に出ることもできないので、用意の食料は日に日にへる一方である。モコウが倹約《けんやく》に倹約をかさねてたくわえたかも、しちめんちょうの肉、塩づけのさかな、サクラ号から持ってきたかんづめ類も、今後どれだけのあいだつづくか、はかることができない。のみならず、十歳から十六歳までの少年である、胃袋《いぶくろ》はおとなよりもすこやかに、食うことにかけてはことごとく豪傑《ごうけつ》ぞろいだからたまらない。
 なおそのうえにやっかいなのは、サービスが生けどっただちょうである。だちょうの大食は少年にまさること数等《すうとう》である、かれのために少年たちは、毎日その食料たる木の根や、生草《なまくさ》を、雪深くほらねばならなかった。これには一同へいこうしてサービスにいった。
「おい、いいかげんにして、だちょうをしめて食おうじゃないか」
前へ 次へ
全64ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング