う、すなわち、たこに乗って、ニュージーランドの家に、ぼくらの窮状《きゅうじょう》を知らせようというのです、ぼくは、一婦人がたこに乗って、空中に飛揚《ひよう》することをこころみて、成功したことを、ある本で読んだことを記憶《きおく》します、いまこれにならってたこを利用し、空中にのぼり、全島のもようを見たら、ぼくらが一日も安心のできない悪漢どものありさまを知ることができると思う」
 富士男の大胆《だいたん》な計画に、一同は眼をみはった。
「しかし、たこははたして、ぼくらのひとりをもちあげる力があるだろうか」
 とドノバンがいった。
「それは物置《ものお》きにあるたこでは不十分だ、だがさらに大なる、さらに堅固《けんご》なものに改造したら、だいじょうぶだと思う」
「たこは一度あがったら、いつまでもそのままでいることができるだろうか」
「それはだいじょうぶだ」
 と工学博士のバクスターが、沈黙《ちんもく》を破ってうなずいた。
「工学博士の保証《ほしょう》があるならだいじょうぶだ、ぼくの小説的空想は、いま実をむすんだ」
 とサービスが鼻孔《びこう》をふくらました。
 一同は笑った。
「富士男君、いったいどのくらいの高さまであげようというのだい」
 とバクスターがいった。
「そうだ、二百メートルぐらいの高さにまで達したいと思うんだ、そうすれば島のもようを見おろすことができる」
「さっそく、ぼくらは実行にうつろう、ぼくらはもうたいくつでたいくつでならないんだからね」
 とサービスが腕をなでた。一同はこの新たなる計画に、眼をギラギラと光らして賛成した。
「製作主任はやっぱりバクスター君にまかせよう」
「それがいい」
「万歳!」
 一同の意気はとみにあがった、だがただひとり、ゴルドンはしじゅう黙然《もくねん》と腕を組んで一言も発しなかった。思慮《しりょ》深いかれはこの冒険《ぼうけん》をあやぶんだ。一同が食堂を去ったのち、かれは富士男に近づいた。
「富士男君、きみはほんとうにこの計画を実行しようというのか」
「そうだ、ぼくはぜひやりたい」
「だがそりゃあまりに危険《きけん》な計画だ」
「ぼくもそう思う」
「そしてだれがみずから一命をかけて、この冒険《ぼうけん》をやるのだ、まちがえば尊《とうと》い人命をなくすのだ」
「ゴルドン君、心配しないでくれたまえ、ぼくには信ずるところがあるのだ」
「まさかきみは、くじでいけにえをきめようというのではなかろうね」
「そんなことはしないよ、ぼくを信じてくれたまえ」
「そうか、ぼくは余《あま》り感心しないよ」
 とゴルドンは、富士男がとうてい意志《いし》をひるがえすことがないのを知って、室を去った。
 翌日主任バクスターの指揮のもとに、一同はたこの改造に着手した、だが、バクスターがいかに工学的の知識があるといっても、まだ子どものことである。人間ひとりをもちあげる重量や、たこの面積や、重力の中心、およびこれにたえるべき糸の太さなど、精確《せいかく》に比較考査《ひかくこうさ》する十分な知識はない、ただ従来《じゅうらい》のたこの飛揚力《ひようりょく》を試験して、さらにこれを拡張《かくちょう》するほかにしかたがない、すなわち、約六十キログラムぐらいの重量をのせてとべるほどの大きなものと見当《けんとう》をつけた、この重量は、連盟員中の最重量者の目方である。二日の苦心さんたんの改造は、直径《ちょっけい》四メートル半、毎辺の長さ一メートル二十、面積およそ五十平方メートルの、八角形の大だこをつくりあげた。たこの尾には、一つのかごがとりつけられた、これはサクラ号の甲板《かんぱん》にあったもので、このなかにひとりがはいってあがるのである。
「ゆれて落ちるようなことはないだろうか」
 とひとりが心配そうにいった。
「それは実験《じっけん》すればわけはない」
 とサービスがいって、素早《すばや》くかごのなかにはいった。それはすわって乳のあたりまでかくれた。
「ほれ、だいじょうぶだ」
 とサービスが得意《とくい》げにさけんだ。
「でも空にあがっても、おりたくなったときはどうするんだい」
 と善金《ゼンキン》がいった。
「それは、かごのふちに一|条《じょう》の糸をつけておく、糸には一個の鉄環《かなわ》をとおしておいて、糸のはしは地上のひとりが持つんだ、おりたくなったら、上から鉄環をはなてば、それがあいずになる」
 とバクスターが、ポケットから一個の鉄環を出して一同にみせた。
「じゃすぐあげてください」
 と幼年組ははしゃいでさけんだ。
「いや、それは晩まで待ってくれたまえ、まっ昼間にあげては、悪漢どもにわざわざぼくらの居所《いどころ》を知らせるようなものだ」
 と富士男が一同のはやる心をおさえた。
 夜がきた、南西の風が吹いて、たこをあげるにはか
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