ょうりょく》ですすんだ、四五日がすぎた、だが海蛇《うみへび》などの悪漢の消息《しょうそく》はようとしてわからない、黒雲が頭をおしつけるように、一同は不安と恐怖《きょうふ》のあいだに、心がおちつかない。
「ゴルドン君、ぼくはひとりで、ドノバン君が発見したというセルベン号のある海岸へいってみようと思う。いつまでも不安な状態《じょうたい》であるより、なにかしっかりした消息《しょうそく》をつかまえたいんだ」
 と富士男が真剣《しんけん》な顔をしていった。
「ぼくもいこう」
 とドノバンがいった。
「ぼくらもいこう」
 とイルコックと、バクスターがいった。
「そりゃ無謀《むぼう》だ。みずから危険のふちにのぞむことは、賛成《さんせい》できない」
 とゴルドンがいった。
「富士男さん、わたしお願いがあるのよ」
 とそばで一同の議論をきいていた、ケートが口をきった。
「どんなことです、おばさん」
「わたしを一日か二日、自由の身にしていただきたいのです」
「それはいったいどういうわけですか」
 とゴルドンがいった。
「この洞穴がいやになったのですか」
 とドノバンがいった。
「いいえ、そうじゃないのです、わたしはみなさんが毎日不安な顔をしているのが、気のどくでたまらないのです、わたしがいって舟があるかないか、調べてきたいのです、それがわたしの責任です」
「それはいまぼくらが決心しかねているのです」
 とドノバンがいった。
「そうです、ですがあなたたち少年連盟は、まだ悪漢が知りません、さいわいわたしは海蛇《うみへび》といっしょにおったものです、あなたたちがゆくよりも危険が少ないと思います」
「それは無謀《むぼう》です。悪漢どもはおばさんが生きていることを知ったら、殺してしまいます」
 と富士男が色をかえてとめた。
「いいえ、ゆかしてください、わたしは一度かれらの毒手《どくしゅ》からのがれることができました、これは神さまが味方してくださったからです、わたしは信じます、そして、あの温良なイバンス運転手をさそってくることができたら、くっきょうな味方になるでしょう」
「でもイバンス運転手は、海蛇《うみへび》の悪事を知っています、悪漢どもにすきがあったら、逃走《とうそう》しているにちがいありませんよ」
 とゴルドンがいった。
「いや、逃亡《とうぼう》をこころみて、悪漢どもの毒手にたおれたのかもしれんよ」
 とドノバンがいった。
「そうだ、そしていまケートおばさんがとらえられたようになったら……」
 と富士男がいうのを、おしとめるようにしてケートがさけんだ。
「わたしは息のつづくかぎり、けっして悪漢どものとりこにはなりません」
「おばさんがぼくらのことを思ってくださるのは、ありがたいです、ですがいま、みすみすおばさんを悪漢どもの手にまかせることはできない、ね、ゴルドン君、ぼくはおばさんに、この冒険《ぼうけん》は思いとまってもらいたいと思うが……」
「そうだ、おばさんは、ぼくらのお母さんの役目をまもっていただきたいと思います」
 とゴルドンがいった。
「あせることはないんだ他《ほか》に方法はいくらでもある」
 と富士男は考え深そうにいった。
 不安のうちにも平和な日はつづいた。だが少年の心は変化を喜ぶ、むやみに広場で遊ぶことを禁じられ、唯一《ゆいつ》の楽しみである鉄砲で鳥をいることも禁じられている、それは一つの発砲で、悪漢どもに知られたくないからだ、春の日がかがやくのに、くる日もくる日も洞穴のなかで暮らさなければならない。ただときおり、だちょうの森にかけたなわに、えものがかかるのが楽しみの一つであった、一同はたいくつを感じた。
 富士男もゴルドンも一同が無聊《ぶりょう》に苦しむのを見て、いろいろきもをくだいた、だがうっかりしたことをして、悪漢どもが知ったら、たいへんな目にあわねばならない、こう考えると手がでない。
 ある日、富士男はフト一計を案《あん》じた。だがそれはあまりに、とっぴにすぎる計画である、はじめかれは空想だと思ってしりぞけた、けれどそれは、しつこくかれの脳心《のうしん》にこびりついてはなれない、かれは日夜、計画を反覆《はんぷく》した。
「これよりほかに方法はない」
 かれはとうとうかたく決心した。
 かおり高いコーヒーが晩餐《ばんさん》のあとののどをうるおす、雑談にふけったり、本を開いたり、一同は思い思いのすがたで食卓《しょくたく》をかこんでいる、富士男がコトコトと食卓をたたいてたちあがった。一同はかれをあおいだ。
「諸君! ぼくは一つの計画を相談したい」
 と富士男が一同を見まわした。
「ほかでもありません、ぼくらはかつてたこをつくってこれを島にあげて、無人島から救助されることを望んだ、そのとき、サービス君がいったことばを、みなは忘れないでしょ
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