あかつきの空をさして飛んだ。モヤモヤと川霧が立ちのぼって河が乳白色にぼかされてゆく。かいの音はまだきこえない。
「遅《おそ》いな」
とガーネットがいった。
「なにかまちがいがあったのじゃなかろうか」
とサービスが不安そうにいう。
「ぼくは兄さんを信ずる、だいじょうぶだ」
と次郎がフハンの鼻をなでながら力強くいった。フハンは次郎のひざにうずくまって眼を細めていた。
富士男とモコウが出発したのち、万一をおもんばかったゴルドンは、年長組のガーネット、サービス、バクスターとはかって、河を見張《みは》りすることにした、意見は一致した。
「だが、バクスター君だけは、幼年組の保護《ほご》のために残ってくれたまえ、でないと幼年組が心細《こころぼそ》がるだろうから」
「そのかわりにぼくがゆきます」
と次郎がいった。
「いや、幼年組はとどまってもらう、夜気にあたって病気になったらたいへんだからね」
とゴルドンがやさしくいった。
「いや、ぼくの身になってください、ぼくはじっとしていられないんです、兄さんにだけ危険をおしつけて、弟がどうして安閑《あんかん》とできましょう。ぼくは病気にならないように、フハンをつれてゆきます、寒くなったらきゃつをだっこします、ぼくの心を知ってくれるなら、フハンはぼくをあたためてくれるでしょう」
「おうなんとけなげな子でしょう」
と寝台のケートがおきあがっていった。
「ゴルドンさん、つれていってやってくださいよ、神さまはいつでも正義の士《し》の味方です」
「ぼくもそう信じます、次郎君、いこう」
「ありがとう」
と次郎が眼をかがやかして勇んだ。
太陽の第一|箭《せん》が雲間を破って空を走った。このとき、次郎の愛撫《あいぶ》に身をまかせていたフハンが、両耳をキッと立てて鼻を鳴らすと、河岸《かし》を上手《かみて》へ走った。
「なんだろう?」
とサービスが緊張《きんちょう》していった。
「かいの音がするぞ」
とゴルドンが、川上をすかすようにしていった。
かすかに水をかく音がする、とフハンが一声長く尾をひいてほえた、それは親しいものによびかける歓喜《かんき》をあらわすほえ声だ。
「帰ってきたぞ」
一同は目をかがやかし、川霧のこめた川上をじっとみつめた。
フハンのほえ声はだんだん近くになる、ボートと平行してくだってくるのだ、一同は緊張《きんちょう》した。
ポカリと川霧を破ってボートがあらわれた。
「万歳《ばんざい》!」
と川岸の四人がさけんだ。
モコウのたくみな操縦《そうじゅう》でボートが岸についた。
「お帰り!」
とゴルドンが富士男の手をにぎった。
「兄さん、ああ肩に血が?」
と次郎がさけんだ。
「ああ、なんでもないよ」
「次郎君、その傷《きず》は僕の一命を救ってくれた尊《とうと》い血なんだ、ぼくはみなに心配をかけた、すまない、ゆるしてくれたまえ」
とドノバンが頭をたれた。
「ぼくらをゆるしてくれたまえ」
とグロース、ウエップ、イルコックが同時にさけんだ。
わずか数日のあいだの分離に、かれらの顔はいたましくやつれ、衣服は破れよごれている、雨に打たれ、風にさいなまれ、恐怖《きょうふ》と不安の艱苦《かんく》をなめたのだ。こう思うとゴルドンは四人がいとしかった。
「ゆるすもゆるさんもないよ、ぼくらがあまり仲がいいので、悪魔がちょっといたずらをしたのだ、ぼくらはいま完全に一致した、以前に倍した和合協力《わごうきょうりょく》をもって敵にあたろう」
とゴルドンの手をとった。
新しい感激《かんげき》の涙が、四人のほおを伝わった。太陽が森のはしにあがった、光の箭《や》が少年連盟を祝福するかのように、河畔《かはん》の少年を照らした。
フハンが先頭になって走った。ケートをとりまいて洞穴の年少組が、ハンケチや帽子をふってむかえた。
「みなさんおなかがすいたでしょう、さあ早くいらっしゃい」
とケートがいった。
食堂はきれいにかたづいて、食卓《しょくたく》にはごちそうがつまれ、うまそうなにおいがたちこめていた、みなはクンクン鼻を鳴らした。
「やあやあ、ぼくの料理よりはずっとうまい」
とモコウがいった。
「そりゃおばさんは女だから、料理は専門《せんもん》さ」
とゴルドンがいった。
「でも、モコウ君の料理もなかなかおいしい」
とドノバンがいった。
「いや、それほどでもありませんや」
とモコウが頭をかいた。
「これからはケートおばさんと、モコウ君と、腕のじょうずがそろったから、ぼくらは胃をこわさないように気をつけねばならない」
と富士男がいった。一同は笑った。
ドノバンの性格《せいかく》は一変した。かれは富士男の命令は忠実にまもった、雨が降って地が固まるように、少年連盟は以前に倍した一|致協力《ちき
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