て空中にあげればゆうに三百メートルくらいの高さにあげることができる。これなれば遠距離《えんきょり》の人の眼にも容易に発見され、ぼくらが救助さるる機会が多くなると思うが、どうだろう」
バクスターは眼をかがやかして、一同を見まわした。
「すばらしい計画だ」
と幼年組がいっせいに拍手を送った。
「バクスター君の計画はすてきだ、だがぼくはもう一歩、その発明を有効にしたい」
と茶目のサービスが青い目玉をくるくるさしていった。
「その大だこの線《いと》をもっと長く強くして、ニュージーランドのぼくらの学校までとどかせ、できればぼくらのひとりを乗せて、救助をたのむんだ」
「そうだ、その乗り手にはぼくが志願《しがん》する」
と次郎が昂奮《こうふん》してさけんだ。
「ぼくがなるよ」
とコスターがさけんだ。
「サービス君、あまり空想的《くうそうてき》な話はよしてくれたまえ、幼年組が本気になって昂奮《こうふん》するじゃないか」
とゴルドンがおだやかにいった。
「失敬、失敬、フランス人の頭は、なかなか小説的にできてるんでね、ハハハ」
とサービスが頭をかいた。
「ぼくだってフランス人だよ、だがこの計画は、けっして小説的じゃないよ」
とバクスターが抗議《こうぎ》した。
「富士男君、きみはどう考える?」
とゴルドンが、みなの気焔《きえん》をニコニコしてきいている富士男にいった。
「バクスター君の計画はぼくも賛成だ、ぼくもそれを考えたことがあるよ、さいわいこの島は無風の日がきわめて少ない、機《き》にのぞんで無用のものを有用に転《てん》ずることは、人間にあたえられた大いなる宝だ、ぼくらはさっそく利用しよう」
富士男の言は力づよくひびいた、一同はとみに意気のあがるのをおぼえた。
「たこの製作はバクスター君に一任しよう」
「賛成!」
「よう工学博士!」
「救いの神さま!」
いろいろな声がとんだ。
翌朝から一同は製作主任のバクスターのさいはいのもとに、リンネルや帆布《ほぬの》を切ったり、ぬいあわせたり、骨をけずったり、嬉々《きき》として仕事をはげんだ。二日二晩の協力はみごとな大だこを完成した。それはドノバン一行が、左門洞をたちのいてから四日目、すなわち十月十五日の晩であった。
「大きいな! 万歳!」
幼年組が歓声《かんせい》をあげた。
「十分にぼくらのひとりをせおうことができるね」
「ぼくがいったとおりだろう」
とサービスが鼻あなをふくらました。
「いったいどうしてあげるの」
と善金《ゼンキン》が不安そうにいった。大だこはとうてい連盟員の力ではおぼつかない。
「岩にくくりつけるんだよ」
と伊孫《イーソン》がすましていった。
「心配ご無用さ、ちゃんと巻きろくろの用意があるよ。これで線《いと》は伸縮自在《しんしゅくじざい》になる」
と主任がいった。
「じゃあすを楽しみに幼年組はおやすみ、ぼくらが残りの準備をしておくから……」
と富士男がいった。幼年組はなごりおしそうに、ベッドへいそいだ。
翌日は幼年組は暗いうちからはしゃぎまわった。だが朝来《ちょうらい》の天候は不穏《ふおん》をつげ、黒雲が矢のようにとび、旋風《せんぷう》が林をたわめてものすごいうなりを伝える。と見るまに大粒《おおつぶ》の雨が落ちてきた。
「あっ! 雨だ!」
天候を気づかって、洞を出たりはいったりしていた、善金《ゼンキン》がさけんだ。
「だめか、残念だなあ!」
一同は走りでて、うらめしそうに嘆息《たんそく》した。
「つまらないなあ」
と幼年組の失望は大きかった。
「あすになればなんでもない」
とゴルドンがいたわるようにいった。
「そうだ、きょうにかぎったことはない、ゆっくり腕《うで》を休めよう、さあみんななかへおはいり」
と富士男がいった。
天候はいよいよ険悪《けんあく》を加え、正午《ひる》ごろからがぜん大あらしに一変した。雨と風と海のものすごいひびきが、一団となって洞穴をおそう。それは夜にはいっていっそうはげしくなった。
あらしは翌日も勢いはおとろえない。一同は脾肉《ひにく》の嘆《たん》を発して腕《うで》をさすった。
十七日の明け方からさしもの豪雨《ごうう》もようやく小降りになり、風速もしだいにおとろえはじめた。
「風がなくなったら、たこあげができない」
と善金《ゼンキン》が心配そうにいった。
「だいじょうぶだよ」
とバクスターが、まじめな顔をしてうけあった。一同は笑った。
正午《ひる》ごろには断雲《だんうん》を破ってまばゆい日が、ひとすじの金箭《きんせん》を投げた。
「万歳!」
待ちに待った幼年組は、日をつかむように両手をかざして、とびまわった。
大だこはさっそく洞外へ運びだされた。巻きろくろは、洞前の岩の根元にすえつけられた。
「ゴルドン
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