てきすてき、こんどこそごちそうだ」
とモコウはいった。そうしてサービスにむかい、
「それともきみは、このジャッカルを乗馬にしますかね」
「いくらなんでも死んだものには乗れないよ」
とサービスはまじめな顔でいった。一同は笑った。
だがえものはこれだけでなかった、富士男はこの壁のすみに、洞《ほら》の入り口があることを発見した、この入り口から外へ出ると、ちょうど湖のほとりになっていた。
翌日からバクスターの設計《せっけい》で、この新しい洞と、古い洞との連絡《れんらく》をひろげ、入り口にはサクラ号からとってきたとびらをとりつけた。
バクスターはさらに思いをこらして、旧洞《きゅうどう》はもっぱら台所、食堂および物置きにあて、新洞《しんどう》は寝室および読書室となした。
毎日毎日寒い風が吹きつづいていたので、洞外《どうがい》の工事ができなくなった、だが二週間ののちにはいっさいの設備《せつび》が完了した。だが一同が救いの船を得るのはいつのときか、あらかじめはかりがたい。それまでむなしく遊び暮らすはもったいない話だと、ゴルドンがいいだした。そこで一定の時間をきめて、課程《かてい》を学習することとなり、年長者はそれぞれ年少者に教えるべく、分担《ぶんたん》をきめた。
六月十日の夕、晩餐後《ばんさんご》の雑談はことにうれしかった。年少者のドールはとつぜんこういった。
「ぼくらが住んでるこの島にも、いろいろ名があるの?」
「無人島だから名はないかもしらん」
とゴルドンは答えた。
「でも、名がないとこまるじゃないの? ぼくらのこの家だって、なんという町かわからない」
「それはもっともだ、諸君、今夜みんなで相談して、名をつけようじゃないか」
「賛成賛成」
「モコウ! 命名式だからコーヒーをごちそうしてくれたまえ」
モコウがつくってくれたコーヒーに舌つづみをうって、一同はストーブをかこんだ。
「まず順序《じゅんじょ》からいうが、ぼくらが第一番に漂着《ひょうちゃく》した港は、船の名にちなんで、サクラ湾としたいと思うがどうだ」
とドノバンはいった。
「賛成賛成」
「ぼくらがこの洞《ほら》を発見したのは、山田左門先生のおかげだから、左門洞《さもんどう》とつけたいね」
と富士男はいった。
「賛成賛成」
「サクラ湾《わん》にそそぐ川は?」
「ニュージーランド川としよう」
「湖は?」
前へ
次へ
全127ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング