ぼって、とうとうすがたが見えなくなった。
とやがて、ただならぬフハンのほゆる声がおこった。
「ゆこう、なにかあるんだろう」
富士男がまっさきに走った。
「気をつけろよ、短銃《たんじゅう》をポケットから出しておくれ」
一同は岩壁《がんぺき》をまわってゆくと、ドノバンはそこで一個のすきを拾った。
「やあ、ふしぎだなあ」
あたりを見まわすと、そのへんに耕作《こうさく》のあとがある、いもは野生に変じて、一面に地の上をはうている。
「野菜《やさい》をつくって生きていたのだ」
こう思うまもなく、フハンはまたしても二つ三つさけび声をあげた。一同はフハンのあとについてゆくと、荊棘《けいきょく》路《みち》をふさぎ、野草が一面においしげて、なにものも見ることができない。富士男は草をはらいはらいして、なかをのぞいてみると、そこにうす暗い洞穴《ほらあな》の入り口を見た。
「待てよ」
富士男は勇み立つ三人をとめて、かれ草をあつめてそれに火をともし、洞穴へさしいれた、そうして空気に異状《いじょう》がないのを見て、一同は洞穴のなかへはいった。洞穴の口は高さ五尺、はば二尺にすぎないが、はいってみると、かつぜんと内部は広くなり、二十尺四方の広間《ひろま》となり、地上にはかわいた砂をしきつめてあった。
室の右方に一きゃくのテーブルがあり、テーブルの上に土製の水さしや、大きな貝がらがあった、貝がらはさらに用いられたものらしい、赤くさびたナイフ、つり針、すずのコップもある。壁ぎわの木箱には、衣服の布《ぬの》がぼろぼろになってすこしばかりのこり、奥のほうの寝台にはわらがしいてあり、木製のろうそく立てもある。
富士男は寝台の上の古毛布《ふるもうふ》をつえの先でおこしてみたが、そこにはなにもなかった。
四人は洞穴を検査《けんさ》して外へ出ると、フハンはまたもや狂気のごとく走った、それについて川をくだると、大きなぶなの木の下に、一|堆《たい》の白骨があった。これこそ洞穴の主人の遺骸《いがい》であろう。
四人はだまって白骨をみつめた。ああ白骨! これはなんぴとの果《は》てであるか?
破船の水夫が、この地に漂着《ひょうちゃく》して救いを待つうちに、病死したのであろうか、かれが洞中《どうちゅう》にたくわえた器具は、木船から持ってきたのであろうか、ただしは、自分がつくったのであろうか、それはともかく
前へ
次へ
全127ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング