というと、イヤぼくは左へゆくといったり、いつも他人に反対して、自分のわがままをつらぬこうとする。ドノバンはいわゆるアマノジャクで、そのごうまんな米国ふうの気質《きしつ》から、いつも富士男を圧迫《あっぱく》して自分が連盟の大将《たいしょう》になろうとするくせがある。富士男が一同に尊敬せらるるのを見ると、かれは嫉妬《しっと》にたえられぬのであった。
このいとうべき性癖《せいへき》があるドノバンに、なにからなにまで敬服しているのは、そのいとこのグロースであった。グロースはなんでも他人に感服するくせがある。かれには自分の考えというものはなく、ただドノバンのいうがままにしたがうのである。
この三人は同年で十五歳だが、いま一人、十六歳の少年ゴルドンがある、かれは英国人の子で、幼にして両親にわかれ、いまでは他人の手にそだてられているが、天稟《てんぴん》の正直と温和で謙遜《けんそん》で冷静《れいせい》な点において、なんぴとからも尊敬せられ、とくに富士男とは親しいあいだがらである。
その他の少年をいちいち紹介《しょうかい》するために、国籍《こくせき》と年齢《ねんれい》を左に略記《りゃっき》する。
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日本 大和富士男(一五) 同弟次郎(一〇)
アメリカ ドノバン(一五) グロース(一五)
イギリス ゴルドン(一六)
フランス ガーネット(一四) サービス(一四) バクスター(一四)
ドイツ ウエップ(一四) イルコック(一五)
イタリア ドール(一〇) コスター(一〇)
シナ 善金《ゼンキン》(一一) 伊孫《イーソン》(一一)
インド モコウ(一四)
猟犬《りょうけん》 フハン
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船の名はサクラ号である。それは、富士男の父の所有する、スクーナーと称《しょう》する帆船《はんせん》で、この団体は夏期休暇を利用して、近海航行についたのが暴風雨《ぼうふうう》になやまされて、東へ東へと流されたのであった。
サクラ号がゆくえ知れなくなったとき、一行の父兄たちは、死に物ぐるいになって捜索《そうさく》をはじめたが、なんの手がかりもえなかった。一ヵ月後にサクラ号としるした船尾《せんび》の板が、ある海岸に漂着《ひょうちゃく》したので、父兄たちはもう捜索の絶望《ぜつぼう》を感じた。
市《まち》の人々は、涙ながらに少年たちの追善《
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