たんどくこうい》にいずるがごとき人があったら、それはその人の不幸ばかりでなく、わが少年連盟《しょうねんれんめい》の不幸だ、いまの時代は自己《じこ》一|点張《てんば》りでは生きてゆけない、少年はたがいにひじをとり、かたをならべて、共同戦線に立たねばならぬのだ、ひとりの滅亡《めつぼう》は万人の滅亡だ、ひとりの損害《そんがい》は万人の損害だ、われわれ連盟は日本英国米国ドイツイタリアフランス支那インド、八ヵ国の少年をもって組織《そしき》された世界少年の連盟だ、われわれはけっして私情《しじょう》をはさんではいけない、もしぼくが私情がましき行為《こうい》があったら、どうか断乎《だんこ》として、僕を責《せ》めてくれたまえ、ねえドノバン」
「わかったよ、だがきみは、なにもぼくらの自由を束縛《そくばく》するような、法律をつくる権利がないじゃないか?」
ドノバンはいまいましそうにいった。
「権利とか義務とかいうのじゃないよ、ただぼくは、共同の安全のためには、おたがいに分離《ぶんり》せぬように心を一にする必要があるというだけだ」
「そうだ、富士男の説は正しい」
と、へいそ温厚《おんこう》な英国少年ゴルドンがいった。
「そうだそうだ」
幼年どもはいっせいにゴルドンに賛成した。
「ねえきみ、気持ちを悪くしてくれるなよ」
富士男はドノバンにいった、ドノバンは、それに答えなかった。
そもそもこの陸は大陸のつづきであるか、ただしは島であるか、第一に考えなければならないのは、この問題である。富士男は北に高い丘をひかえ、岩壁《がんぺき》の下に半月形にひらけた砂原を見やっていった。
「陸には一すじの煙も見えない、ここには人が住んでないと見える」
「人が住まないところに、舟が一そうだってあるものか」
とドノバンは冷笑《れいしょう》した。
「いやそうとはいえまい」とゴルドンは思案顔《しあんがお》に「昨夜の嵐《あらし》におそれて舟が出ないのかもしらんよ」
三人が議論《ぎろん》をしているあいだに、他の少年たちはもう上陸の準備《じゅんび》にとりかかった。固《かた》パン、ビスケット、ほしぶどう、かんづめ、塩《しお》や砂糖、ほし肉、バタの類はそれぞれしばったり、つつんだり、袋《ふくろ》にいれたり、早く潮がひけよとばかり待っていた。七時になった。だがいっこう潮が引かない、そのうえに船はますます左にかたむい
前へ
次へ
全127ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング