した。
「おい、みんなこいよ」
少年たちはおどりあがって喜んだ。まっさきにのぼってきたのは猟犬《りょうけん》フハンである。そのつぎには富士男の弟次郎、それから支那《しな》少年|善金《ゼンキン》と伊孫《イーソン》、イタリア少年ドールとコスターの十歳組、そのつぎにはフランス少年ガーネットとサービス、そのつぎにはドイツ少年ウエップとイルコック、おわりに米国少年グロースがのぼってきた。かれらはいちように手をあげて万歳《ばんざい》をとなえた。
午前六時、船はしずかに岸辺についた。
「気をつけろよ、岩が多いから乗りあげるかもしらん、そのときにあわてないように、浮き袋をしっかりとからだにつけていたまえ」
富士男は人々に注意した。するすると船は進んだ、とつぜんかすかな音を船底《せんてい》に感じた。
「しまった!」
船ははたして暗礁《あんしょう》に乗り上げたのであった。
「モコウ、どうした」
「乗りあげましたが、たいしたことはありません」
じっさいそれは不幸中のさいわいであった、船は暗礁《あんしょう》の上にすわったので、外部には少しぐらいの損傷《そんしょう》があったが、浸水《しんすい》するほどの損害《そんがい》はなかった、だが動かなくなった船をどうするか。
船はなぎさまではまだ三百二、三十メートルほどもある、ボートはすべて波にさらわれてしまったので、岸へわたるには、ただ泳いでゆくよりほかに方法がない、このうち二、三人は泳げるとしても、十歳や十一歳の幼年をどうするか。
富士男はとほうにくれて、甲板《かんぱん》をゆきつもどりつ思案《しあん》にふけっていた。とこのときかれはドノバンが大きな声で何かののしっているのをきいた。なにごとだろうと富士男はそのほうにあゆみよると、ドノバンはまっかな顔をしてどなっていた。
「船をもっと出そうじゃないか」
「乗りあげたのだから出ません」
とモコウはいった。
「みんなで出るようにしようじゃないか」
「それはだめです」
「それじゃここから泳いでゆくことにしよう」
「賛成《さんせい》賛成」
他の二、三人が賛成した。もう海上を長いあいだ漂流《ひょうりゅう》し、暴風雨《ぼうふうう》と戦って根気《こんき》もつきはてた少年どもは、いま眼前に陸地を見ると、もういても立ってもいられない。
「泳いでゆこう」
とドイツのイルコックがいった。
「ゆこうゆこう
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