れてしまうことになる、諸君は学生の分を知らなければならん、学生は決して俗世界のことに指を染《そ》めてはならん、ただ、私は諸君にいう、ジョン・ブライトは『正しきを踏《ふ》んでおそるるなかれ』といった、私はこの格言を諸君に教えた、私が去るのもそれである、諸君もまたこの格言をわすれてはならぬ、五年生は来年だ、一年生も五年の後には卒業するだろう、そのときにはまた会える、はるかに浦和の天をながめて諸君の健全を祈《いの》ろう、諸君もまたいままでどおりにりっぱに勉強したまえ」
 小原はぐったりと頭をたれてだまった、もう何人《なんぴと》もいうものがない、校長がいかにも悲しげに一同を見おろして一礼した、生徒はことごとく起立しておじぎをした。そうしてそのままふたたびなきだした。
 後列の方から扉口《とぐち》へくずれだした、いとしめやかな足取り、葬式のごとく悲しげに一同は講堂をでた。
「だめかなア」
 光一は人々とはなれてひとりなきたいと思った、かれは夢のごとく町を歩いた、かれは自分の背後からいそがしそうにあるいてくる足音を聞いた、足音は次第に近づいた、そうして光一を通りすごした。
「青木君」かれは呼びとめ
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