くらをすてるんですか」
「先生を追いだすやつがあるんですか」
小さな声大きな声、バスとバリトンの差はあれども声々は熱狂にふるえていた、実際それは若き純粋な血と涙が一度に潰裂《かいれつ》した至情の洪水《こうずい》であった。
「諸君?[#「?」はママ]」
小原捕手《こはらキャッチャ》は講壇の下におどり出して一同の方へ両手をひろげて立った。
「校長先生が諸君に告別の辞をたまわるそうだが、諸君は先生とわかれる意志があるか、意志があるなら告別の辞を聴くべしだ、意志のない者は……どうしても先生とわかれたくないものはお話を聴く必要がないと思うがどうだ」
「そうだ、無論だ」
講堂の壁がわれるばかりの喝采と拍手が起こった。
「小原、おねがいしてくれ、先生におねがいしてくれ」
だれかがすきとおる声でこういった。校長はまっさおになってこの体《てい》を見ていた。自分が手塩にかけて教育した生徒がかほどまで自分を信じてくれるかと思うと心の中でなかずにはいられなかった。
「先生!」
小原は校長の方へ向きなおっていった、そのまっ黒な顔に燃ゆるごとき炎《ほのお》がひらめいた、広い肩と太い首が波の如《ごと》くふ
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