は校長の美しい心に打たれて反対することができなくなった、人々は沈黙した。そうしてしずかに会議をおわった。
「こんなにありがたい校長および職員一同の心持ちが阪井にわからんのかなア」と少尉は涙ぐんでいった。
停学を命ずという掲示が翌日掲げられたとき、生徒一同は万歳を叫んだ。だがそれと同時に阪井は退校届けをだした。校長はいくども阪井の家を訪《と》うて退校届けの撤回《てっかい》をすすめたがきかなかった。
校長はまたまた柳の見舞いにいった。光一の負傷は浅かったが、なにかの黴菌《ばいきん》にふれて顔が一面にはれあがった。かれの母は毎日見舞いの人々にこういって涙をこぼした。
「阪井のせがれにこんなにひどいめにあわされましたよ」
それを見て父の利三郎は母をしかりつけた。
「愚痴《ぐち》をいうなよ、男の子は外へ出ると喧嘩をするのは仕方がない、先方の子をけがさせるよりも家の子がけがするほうがいい」
そのころ町々は町会議員の選挙で鼎《かなえ》のわくがごとく混乱《こんらん》した、あらゆる商店の主人はほとんど店を空《から》にして奔走《ほんそう》した。演説会のビラが電信柱や辻々《つじつじ》にはりだされ、家
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