ましょう」
光一はふたたび走って去った。雑嚢《ざつのう》を片手にかかえ、片手に画用紙を持ち両ひじをわきにぴったりと着けて姿勢正して走りゆく、それを見送ってチビ公は昔小学校時代のことをまざまざと思いだした。なんとなく光一の前途にはその名のごとく光があふれてるように見える、学問ができて体力が十分で品行がよくて、人望がある、ああいう人はいまにりっぱな学者になるだろう。
そこでかれはまたらっぱをふいた、嚠喨《りゅうりょう》たる音は町中にひびいた。チビ公が売りきれるまで町を歩いてるその日の十二時ごろ、中学校の校庭で巌《いわお》はものほしそうにみんなが昼飯を食っているのをながめていた、かれは大抵《たいてい》十時ごろに昼の弁当を食ってしまうので正午《ひる》になるとまたもや空腹を感ずるのであった。そういうときにはかならずだれかに喧嘩《けんか》をふきかけてその弁当を掠奪《りゃくだつ》するのである。自分の弁当を食うよりは掠奪のほうがはるかにうまい。
「みんな集まれい」とかれはどなった。だが何人も集まらなかった、いつものこととて生徒等はこそこそと木立ちの陰《かげ》にかくれた。
「へびの芸当だ」とかれはい
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