に味方し、好んで人の間柄をさいて喜んでるので、光一はかれのいうことをさまで気にとめなかった。
 そのころ生蕃は得意の絶頂にあった、かれが三年のライオンを征服してから驍名《ぎょうめい》校中にとどろいた。かれは肩幅を広く見せようと両ひじをつっぱり、下腹を前へつきだして歩くと、その幕下共《ばっかども》は左右にしたがって同じような態度をまねるのであった。とくにかれは覚平の一件があってから凶暴《きょうぼう》がますます凶暴を加えた。
 学校の小使いは廃兵《はいへい》であった。かれはらっぱをふくことがじょうずで、時間時間には玄関へでて腹一ぱいにふきあげる。それから右と左のろうかへふきこむと生徒がぞろぞろ教室をでる。それを見るとかれは愉快でたまらない。
「生意気なことをいってもおれのらっぱででたりはいったりするんだ、おまえたちはおれの命令にしたがってるんじゃないか」
 こうかれは生徒共にいうのであった。かれはもう五十をすぎたが女房《にょうぼう》も子もない、ほんのひとりぽっちで毎日生徒を相手に気焔《きえん》をはいてくらしている、かれは日清戦争《にっしんせんそう》に出征して牙山《がざん》の役《えき》に敵の
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