」
「いやいや、そんなことは……」と光一は頭をふって、「ぼくは知らない、なんにも知らない」
「かくさないでいってください、ぼくはお礼をいわないと気がすまないから」
「そうじゃないよきみ、決してそうじゃない、ところできみ、いまの話はどうする、きみはぼくと一緒に中学へ通わないか、ねえきみ、きみはぼくよりもできるんだからね、ぼくの家はきみに学資《がくし》をだすくらいの余裕《よゆう》があるんだ、決して遠慮することはないよ、ぼくの父は商人だけれども金を貯《た》めることばかり考えてやしない、金より大切なのは人間だってしじゅういってるよ、きみのような有望な人間を世話することは父が一番すきなことなんだから、ねえきみ、ふたりで一緒にやろう、大学をでるまでね、きみは二年の試験を受けたまえ、きっと入学ができるよ、ねえきみ」
光一の目は次第に熱気をおびてきた、かれの心はいまどうかして親友の危難《きなん》を救い、親友をして光ある世界に活躍せしめようという友情にみたされていた。
「ねえ青木君、ねえ、そうしたまえよ」
かれは千三の手をしっかりとにぎって顔をのぞいた。うの花がふたりの胸にたもとにちらりちらりとちり
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