想は失望や憤慨《ふんがい》にともなって頭の中に往来した。人々はさかんにお膳をあらした、チビ公はだまってお膳を見るとたいの焼きざかなにきんとん、かまぼこ、まぐろの刺身《さしみ》は赤く輝き、吸《す》い物《もの》は暖かに湯気をたてている。かれは伯父《おじ》さんを思いだした、伯父さんはいつも口ぐせにこういった。
「まぐろの刺身で一|杯《ぱい》やらかしたいもんだなあ」
これを伯父さんへ持っていったらどんなに喜ぶだろう、かれはこう思いかえした、そうしてたいは伯母《おば》さんと母が好きだからかまぼこだけは家へかえってからぼくが食べよう。
食事がおわってからまたもや余興がはじまった、チビ公はいとまをつげてひと足早く光一の家をでた、かれはてぬぐいに包んださかなの折《お》り箱《ばこ》を後生大事に片手にぶらさげ、昼のごとく明るい月の町をひとりたんぼ道へさしかかった。道のかなたに見える大きな建物は一年前に通いなれた小学校である。月下の小学校はいま、安らかに眠っている。はしご形の屋根のむねからななめにひろがるかわらの波、思いだしたようにぎらぎら反射する窓のガラス、こんもりとしげった校庭の大樹、そこで自分は六
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