。手塚は涙ぐんでうなだれていた。ろばはきょとんとして首を上げて手塚をののしった。
「だからおれはいやだというにおまえが加勢してくれというもんだから」
「ざまあみろ」と安場はわらった。「それが平凡主義の本性なんだ」
 安場は歩きだした。そうして快然とうたいだした。
「ああ玉杯《ぎょくはい》に花うけて、緑酒《りょくしゅ》に月の影《かげ》やどし、治安の夢《ゆめ》にふけりたる、栄華《えいが》の巷《ちまた》低く見て……」

 読者諸君、回数にかぎりあり、この物語はこれにて擱筆《かくひつ》します。もし諸君が人々の消息を知りたければ六年前に一高の寮舎《りょうしゃ》にありし人について聞くがよい。青木千三と柳光一はどの室の窓からその元気のいい顔をだしてどんな声で玉杯をうたったか。それから一年おくれて入校した生蕃《せいばん》とあだなのつく阪井巌という青年が非常な勉強をもって首席で大学にはいったことも同時に聞くがいい。
 さらに安場のことがしりたければ黙々《もくもく》先生をたずねなさい。先生は多分こういうだろう。
「安場ですか、あれはいまロンドンの日本大使館にいます」と。
 さらに諸君は「安場はロンドンでな
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