国家の意志であります、ここにおいて昔のように英雄なる一人の暴虐者《ぼうぎゃくしゃ》の下に膝を屈するということは断じてやめなければなりません。諸君はナポレオンを英雄なりという、しかしナポレオンのためにフランスはどれだけ英国やロシアやドイツの圧迫を受けたか、一英雄のために国は疲れついにめめしくも城下のちかいをなして彼の英雄をセントヘレナへ流したではないか、おそるべきは英雄である、忌《い》むべきは英雄である、現代の日本は英雄崇拝の妄念《もうねん》を去って平等と自由に向かって進まねばならぬ、すべての偶像《ぐうぞう》を焼いて世界の趨勢にしたがわねばならぬ、私の論はこれをもっておわりとします」
 会衆は恍惚《こうこつ》としてかれの声をきいていた、それはきわめて大胆で奇抜で、そうして斬新《ざんしん》な論旨である、偶像|破壊《はかい》! 平等と自由! デモクラシーの意義!
 わるるばかりの拍手に送られて手塚は壇をおりた。かれの左右から校友がかわりがわりに握手するやら肩を打つやらした。手塚は揚々として席についた。
「反対!」と叫んだものがある。人々はその方を見ると師範学校の野淵であった。野淵というのは模
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