に礼儀正しいので友達はみなわらった。
「やあ青木君」
「やあ」
一年前の同級生のこととてかれらは昔のごとくチビ公を仲間に入れた。次第次第に客の数がふえてもはや十二、三人になった、かれらは座蒲団を敷かずに縁側《えんがわ》にすわったり、庭へでたりしたがお菓子やくだものがでたので急に室内に集まった。手塚はこういう会合にはなくてならない男であった。かれは蓄音機係として一枚一枚に説明を加えた。
「ぼくはね、カルメンよりトラビヤタの方がすきだよ」とかれがいった。
「ぼくは鴨緑江節《おうりょっこうぶし》がいい」とだれかがいった。
「低級|趣味《しゅみ》を発揮するなよ」と手塚はいった。そうしてトラビヤタをかけてひとりでなにもかも知っているような顔をして首をふったり感心した表情をしたりした。
片隅では光一をとりまいた四、五人が幾何学《きかがく》によって座蒲団二枚を対比して論じていた。
「そら、角度が同じければ辺が同じだろう」とひとりがいう。
「等辺三角形は角度も相等しだ」と光一がいった。
チビ公に近いところにたむろした一団は物体と影の関係について論じていた、洋画式でいうと物体にはかならず光の反射が
前へ
次へ
全283ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング