にゃあたらねえ」と伯父《おじ》の覚平《かくへい》がいった。覚平は元来金持ちと役人はきらいであった、かれは朝から晩まで働いて、ただ楽しむところは晩酌《ばんしゃく》の一合であった。だがかれは一合だけですまなかった。二合になり三合になり、相手があると一|升《しょう》の酒を飲む。それだけでやまずにおりおり外へでて喧嘩をする、かれは酔《よ》うとかならず喧嘩をするのであった。そのくせ飲まないときにはほとんど別人のごとく温和でやさしくてにこにこしている。
「じゃいってまいります」
「いっておいで」
 チビ公はあたらしいてぬぐいをはかまのひもにぶらさげ、あたらしいげたをはいて家をでた。光一の家へゆくとすでに五、六人の友達がきていた、その中には医者の子の手塚もいた、光一の家は雑貨店であるが光一の書斎《しょさい》ははなれの六|畳《じょう》であった。となりの六畳室のふすまをはずしてそこに座蒲団《ざぶとん》がたくさんしいてあった。先客はすでに蓄音器《ちくおんき》をかけてきいていた。
「よくきてくれたね、青木君」と光一はうれしそうにいった。
「今日《こんち》はおめでとう」とチビ公はていねいにおじぎをした。あまり
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