だ」
 光一の言葉は一語ごとに熱気をおびてきた、かれは手塚の自尊心を傷つけまいとつとめながらも、次第にこみあげてくる感情にかられて果ては涙をはらはらと流した。
「柳!」
 手塚はぐったりと首をたれていった。
「堪忍してくれ、ぼくは改心する」
「そうか」
 光一は嬉しさのあまり手塚をだきしめたが急に声をだしてないた。手塚もないた。日は暮れてなにも見えなくなった。横合いの小路《こうじ》をらっぱをふきふきチビ公が荷をゆすってうたいゆく。
「……清き心のますらおが、剣《つるぎ》と筆とをとり持ちて、一たびたたば何事か、人生の偉業成らざらん、ぷうぷう、豆腐イ、ぷうぷう」

         十一

 柳一家はいつも幸福に満たされていた、光一の心はいつも平安であった、かれの一番好きなのは朝である。かれは朝に目をさますと寝床《ねどこ》の中で校歌を一つうたう、それから床《とこ》をでて手水《ちょうず》をつかい茶の間へゆくと父と母と妹が待っている。
「お兄さんは寝坊ね」
 妹の文子《ふみこ》はいつもこうわらう、兄妹の規約としておそく起きたものがおじぎをすることになっている、光一は毎日妹におじぎをせねばならな
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