とるつもりであった。だが先生の押す力がずっとひじにこたえる。
「弱いやつだ、青年がそれでどうする、米の飯を食わせておくのはおしいものだ、やい、いも虫、なき虫、わらじ虫!」
 あまりしつこく虫づくしをいうのでおれもちょっと癪《しゃく》にさわった。
「いいですか、本気をだしますぞ」
「よしッ、虫けらの本気はどんなものか、へっぴり虫!」
「よしッ」
 おれは満身の力をこめて一気に先生を押したおそうとした、先生の腕が少しかたむいた。
「いいかな」
 先生はこういって、「うん」と一つうなった、たよたよとした細い腕はがきっと組んだまま大盤石《だいばんじゃく》!
「おやッ」
 おれは頭を畳《たたみ》にすりつけ、左の掌《てのひら》で畳をしっかとおさえ肩先に力をあつめて押しだした。
「虫があばれるあばれる」と先生はげらげらわらった。おれはどうもふしぎでたまらない。負けるはずがないのだ。
「いいかな」
 先生はこういっておれのこぶしをひた押しに倒してしまった。
 おれは汗をびっしょりかいて、ふうふう息をはずませた。
「どうだ」
 首を傾《かし》げてふしぎがってるおれの顔を見て先生はわらった。
「ふしぎです
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