ちいち漢文の文法と対照した、そのために生徒は英漢の文法を一度に知ることができた。
先生はいかなる場合にも虚偽と臆病をきらった。臆病は虚偽の基である、かれは講義をなしつつあるあいだに突然こういうときがある。
「眠い人があるか」
「あります」と千三が手をあげた。
「庭に出て水をあびてこい」
先生は千三の正直が気にいった。
冬がきた、正月も間近になる、せめて母に新しく綿《わた》のはいったもの一枚でも着せてやりたい、こういう考えから千三は一生懸命に働いた、しかも通学は一晩も休まなかった、かれは先生の家をでるとすぐぐらぐら眠りながら家へ帰る夜が多かった。
と、災厄《さいやく》はつぎからつぎへと起こる、ある夜かれが家へ帰ると母が麻糸《あさいと》つなぎをやっていた、いくらにもならないのだが、彼女はいくらかでも働かねば正月を迎えることができないのであった。
「ただいま」
千三は勢いよく声をかけた。
「お帰り、寒かったろう」と母は火鉢の火をかきたてた、灰《はい》の中にはわずかにほたるのような光が見えた、外はひゅうひゅう風がうなっている。
「寒いなあ」と千三《せんぞう》は思わずいった。
「お待ち
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