悲しませるものは小学校時代にいつも先生にしかられていた不成績の子が、りっぱな中学生の服装で雑嚢《ざつのう》を肩にかけ徽章《きしょう》のついた帽子を輝かして行くのを見たときである。
「金持ちの家に生まれれば出来ない子でも大学までいける、貧乏人の子は学校へもいけない、かれらが学士になり博士になるときにもおれはやはり豆腐屋でいるだろう」
 こう思うとなさけないような気が胸一ぱいになる。
「学校へいきたいな」
 かれの帰り道は県庁の横手の小川の堤である、かれは堤の露草をふみふみぐったりと顔をたれて同じことをくりかえしくりかえし考えるのであった。
 ときとしてかれは師範学校の裏手を通る、寄宿舎には灯影《ほかげ》が並んでおりおりわかやかな唱歌の声が聞こえる。
「官費でいいから学校へゆきたい」
 こうも考える、だがかれはすぐそれをうちけす。かれの目の前に伯父覚平の老顔がありありと見えるのである。
「おれが働かなきゃ、みなが食べていけない」
 そこでかれは夕闇に残る西雲の微明に向かってらっぱをふく。らっぱの音は遠くの森にひびき、近くのわらやねに反響してわが胸に悲しい思いをうちかえす。
 ある日伯父の覚
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