、青黒い病人じみた顔は目ばかり光って見えた、帯がとけかけたのも、ぞうりのはなおが切れたのもいっさいかれは気がつかぬもののごとく汽車を見つめていた。
 万歳万歳の声と共に校長の顔があらわれたときかれはじっと目を校長に据《す》えた。かれの胸はふるえかれの口元は悲痛と悔恨にゆるみ、そうしてかれの目から大粒の涙がこぼれた。
 かれは阪井|巌《いわお》である。
 汽車が見えなくなったときかれはようやくさくをはなれて長い溜《た》め息《いき》をついた。それからじっと大通りの方を見やった。そこには学校の友達が波のくずれるごとく、帰りゆく、阪井は顔をたれてしずかに歩いた。
 とだれかの声がした。
「生蕃がいる」
「阪井のやつがきている」
 少年達の目は一度に阪井にそそがれた、阪井は棒のごとく立ちすくんだ。
「やい生蕃」
 まっさきにつめよったのはライオンであった。
「やい」
 阪井はだまっている。
「きさまはなにしにきた」
「久保井先生に用事があってきたよ」と阪井はやはり顔もあげずにいった。
「きさまは久保井先生を学校からおいだしたんじゃないか、どの面《つら》さげてやってきたんだ」
「…………」
「おい
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