のわかやかな胸には万斛《ばんこく》の血が高波をおどらしている。
校長はほっ[#「ほっ」に傍点]として立ちどまったまま動かない。かれはなにかいおうとしたが涙がのどにつまっていえなかった。かれは全校生徒がかくまで自分を慕《した》ってくれるとは思わなかった。
生徒はやはりなんにもいわなかった。かれらはこの厳粛な刹那《せつな》において、校長と自分の霊魂がふれあったような気がした。
「ありがとう、どうもありがとう」
校長の口からこういう低い声がもれた。実際校長の心持ちは千万言を費やすよりもありがとうの一語につきているのであった、かれはいま九百の青少年から人間としてもっとも美しい精霊を感受することができたのであった。
かれはこういってから老母の手をとってなにやらささやいた。老母は雪のような白髪頭《しらがあたま》をまっすぐに起こして一同を見まわした、その気高くきざんだ顔のしわじわが波のようにふるえると、あわててハンケチをふところからだして顔にあてた。
こらえこらえた悲しみは大河の決するごとく場内にあふれだした。ライオンはおどりでて叫んだ。
「やれッ」
一同は校歌をうたいだした。
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