きいた。
「さすがの猛太も今日《きょう》こそは往生したらしいぜ、町長にひどくしかられたそうだよ」とひとりがいった。
「町長だってどうやら臭《くさ》いものだ」とひとりがいう。
「いや町長はなかなかいい人だ」
 ふたりの話を聞きながら巌はまたしてもはらのうちで冷笑した。
「町長なんて、それはおれの親父《おやじ》にふりまわされてるでくのぼうだってことを知らないんだ」
 かれはこう思うて家へ帰った、父はすでに帰っていた、だまってにがりきった顔をして座っていたので巌はつぎの室《へや》へひっこんだ、機嫌の悪いときに近づくとげんこつが飛んでくるおそれがあるからである、父は短気だからげんこつが非常に早い。
「おい巌」と猛太は呼《よ》んだ。
「はい」
「きさま、どこへいってきた」
「床屋《とこや》へゆきました」
「なにしにいった」
「頭を刈りに」
「ばかッ、頭を刈ったってきさまの頭がよくなるかッ」
「お母さんがゆけといったから」
「お母さんもばかだ、頭はいくらだ」
「二十銭です」
「二十銭で頭を刈りやがって、学校を退校されやがって」
 巌はだまった、二十銭の頭と自分の退校といかなる関係があるかと考えてみ
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