あり、出京後《しゆつきやうご》重井《おもゐ》に打明《うちあけ》て、郷里なる両親に謀《はか》らんとせしに彼は許さず、暫らく秘して人に知らしむる勿《なか》れとの事に、妾《せふ》は不快の念に堪へざりしかど、斯《かゝ》る不自由の身となりては、今更に詮方《せんかた》もなく、彼の言ふが儘《まゝ》に従ふに如《し》かずと閑静なる処に寓居を構《かま》へ、下婢《かひ》と書生の三人暮しにていよ/\世間婦人の常道を歩み始めんとの心構《こゝろがま》へなりしに、事実は之に反して、重井《おもゐ》は最初|妾《せふ》に誓ひ、将《は》た両親に誓ひしことをも忘れし如く、妾《せふ》を遇すること彼《か》の口にするだも忌《いま》はしき外妾《ぐわいせふ》同様の姿なるは何事ぞや。如何なる事情あるかは知らざれども、妾《せふ》を斯《かゝ》る悲境に沈ましめ、殊に胎児にまで世の謗《そし》りを受《うけ》しむるを慮《おもんばか》らずとは、是れをしも親の情といふべきかと、会合の都度《つど》切《せつ》に言聞《いひきこ》えけるに、彼も流石《さすが》に憂慮の体《てい》にて、今暫らく発表を見合《みあは》し呉れよ、今郷里の両親に御身《おんみ》懐胎《くわいた
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