に学術の研究も出来たるならんに、漢籍は『論語』『大学』位その他は『原人論《げんじんろん》』とか、『聖書』とかの宗教の書を許可せられしのみなりければ、ある時は英学を独習せんことを思い立ち、少しく西洋人に学びしことあるを基《もと》として、日々|勉励《べんれい》したりしかど、やはり堂に昇《のぼ》らずして止《や》みたるは恥かしき次第なり。在獄中に出獄せば如何《いか》にせん志《こころざし》を達せばかくなさんと、種々の空想に耽りしも、出獄|間《ま》もなくその空想は全く仇《あだ》となり、失望の極《きょく》われとはなしに堕落《だらく》して、半生《はんせい》を夢と過ごしたることの口惜しさよ。せめては今後を人間らしう送らんとの念はかく懺悔《ざんげ》の隙《ひま》もいと切《せつ》なり。
四 獄吏の真相
妾が在獄中別に悲しと思いし事もなく浮《う》かと日を明かし暮らせしも無理ならず。功名心に熱したる当時の事なれば、毎日署長看守長、さては看守らの来りては種々の事どもを話しかけられ慰められ、また信書を認《したた》むる時などには、若き看守の好奇《ものずき》にも監督を名として監房に来りては、楽書《らくがき》などし
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