りの消息なし。さては人の心の頼めなきことよなど案じ煩《わずら》いつつ、居《い》て待たんよりは、むしろ行きて見るに若《し》かずと、これを葉石氏に議《はか》りしに、心変りならば行くも詮《せん》なし、さなくばおるも消息のなからんやという。実《げ》にさなりと思いければ、余儀なくもその言葉に従い、また幾日をか過ぎぬるある日、鉛筆もてそこはかと認《したた》めたる一封の書は来《きた》りぬ。見れば怨《うら》めしくも恋しかりし女史よりの手紙なり。冒頭に「アアしくじったり誤りたり取餅桶《とりもちおけ》に陥《おちい》りたり今日《こんにち》はもはや曩日《さき》の富井《とみい》にあらず妹《まい》は一死以て君《きみ》に謝せずんばあらず今日の悲境は筆紙の能《よ》く尽す処にあらずただただ二階の一隅に推《お》しこめられて日々なす事もなく恋しき東の空を眺《なが》め悲哀に胸を焦《こが》すのみ余は記する能《あた》わず幸いに諒《りょう》せよ」とあり。言《こと》は簡なれども、事情の大方は推《すい》せられつ。さて何とか救済の道もがなと千々《ちぢ》に心を砕《くだ》きけれども、その術なし。さらば己れ女史の代りをも兼ねて、二倍の働きをな
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