井これに答えて、なるほどしかる乎《か》、かくの如き人あらば、即ち帰らしむべし、何ぞ多人数《たにんず》を要せん。わが諸君に対するの義務は、畢竟《ひっきょう》一身を抛擲《ほうてき》して、内地に止まる人に好手段を与うるの犠牲たるのみなれば、決死の壮士少数にて足れり、何ぞ公私を顧みざる如きの人を要せんやと。儂《のう》この言に感じ、ああこの人国のために、一身の名誉を顧みず、内事《ないじ》は総《すべ》て大井、小林の任ずる所なれば、敢《あ》えて関せず、我は啻《ただ》その義務責任を尽すのみと、自ら奮って犠牲たらんと欲するは、真に志士の天職を、全《まっと》うする者と、暫《しば》し讃嘆の念に打たれしが、儂もまた、この行《こう》決死せざれば、到底充分|平常《へいぜい》希望する処の目的を達する能《あた》わず。かつ儂今回の同行、偏《ひとえ》に通信員に止まるといえども、内事は大井、小林の両志士ありて、充分の運動をなさん。儂《のう》今|仮令《たとい》異国の鬼となるも、事《こと》幸いに成就《じょうじゅ》せば、儂《のう》平常の素志も、彼ら同志の拡張する処ならん。まずこれについての手段に尽力し、彼らに好都合を得せしむるに
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