りてその任に当り、行く事に決せしかば、彼もまた同じく、儂《のう》に同行せん事を以てす。儂既に決心せし時なれば、直ちにこれを諾し、大井、小林と分袂《ぶんべい》し、新井と共に渡航の途《と》に就き、崎陽《きよう》に至り、仁川行《じんせんこう》の出帆《しゅっぱん》を待ち合わせ居たり。しかる所滞留中、磯山逃奔一件に就き、新井代るに及び、壮士間に紛紜《ふんぬん》を生じ、渡航を拒《こば》むの壮士もある様子ゆえ、儂は憂慮に堪えず、彼らに向かい、間接に公私の区別を説きしも、悲しいかな、公私を顧みるの慮《おもんばか》りなく、許容せざるを以て、儂は大いに奮激する所あり、いまだ同志の人に語らざるも、断然決死の覚悟をなしたりけり。その際|儂《のう》は新井に向かいいうよう、儂この地に到着するや否や壮士の心中を窺《うかが》うに、堂々たる男子にして、私情を挟《さしはさ》み、公事を抛《なげう》たんとするの意あり、しかして君《きみ》の代任《だいにん》を忌《い》むの風《ふう》あり、誠に邦家《ほうか》のために歎《たん》ずべき次第なり。しかれども、これらの壮士は、かえって内地に止《とど》まる方《かた》好手段ならんといいしに、新
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