惜《くちお》しく腹立たしき限りなれ。かくわが朝鮮事件に関せし有志者は、出獄後郷里の有志者より数年《すねん》の辛苦を徳とせられ、大抵《たいてい》代議士に撰抜せられて、一時に得意の世となりたるなり。復《ま》た当年の苦艱《くかん》を顧《かえり》みる者なく、そが細君すらも悉《ことごと》く虚名虚位に恋々《れんれん》して、昔年《せきねん》唱えたりし主義も本領も失い果し、一念その身の栄耀《えいよう》に汲々《きゅうきゅう》として借金|賄賂《わいろ》これ本職たるの有様となりたれば、かの時代の志士ほど、世に堕落したる者はなしなど世の人にも謡《うた》わるるなり。さる薄志弱行の人なればこそ、妾《しょう》が重井のために無上の恥辱を蒙《こうむ》りたるをば、なかなかに乗ずべき機なりとなし、厭《いや》になったら、また善《よ》いのを求むべし、これが当世なりとは、さても横に裂《さ》けたる口かな。何たる教訓ぞや。

 六 重井と絶《た》つ

 見よ彼らが家庭の紊乱《びんらん》せる有様を、数年間《すねんかん》苦節を守りし最愛の妻をして、良人《りょうじん》の出獄、やれ嬉しやと思う間もなく、かえって入獄中の心配よりも一層の苦悶《
前へ 次へ
全171ページ中141ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福田 英子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング