耳目《じもく》を惹《ひ》かせんは、子の行末《ゆくすえ》のため、決して好《よ》き事にはあらざるべきを思うてなり。ただその命名につきて一場《いちじょう》の奇談あり、迷信の謗《そし》り免《まぬ》かれずとも、事実なれば記《しる》しおくべし。その子の身に宿りしより常に殺気を帯べる夢のみ多く、ある時は深山《しんざん》に迷い込みて数千《すせん》の狼《おおかみ》に囲《かこ》まれ、一生懸命の勇を鼓《なら》して、その首領なる老狼《ろうろう》を引き倒し、上顎《うわあご》と下顎《したあご》に手をかけて、口より身体までを両断せしに、他《た》の狼児は狼狽《ろうばい》して悉《ことごと》く遁失《にげう》せ、またある時は幼時かつて講読したりし、『十八史略』中の事実、即ち「禹《う》江《こう》を渡る時、蛟竜《こうりょう》船を追う、舟中《しゅうちゅう》の人皆|慴《おそ》る、禹《う》天を仰いで、嘆じて曰《いわ》く、我|命《めい》を天に享《う》く、力を尽して、万民を労す、生は寄なり、死は帰なりと、竜《りょう》を見る事、蜿※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]《えんてい》の如く、眼色《がんしょく》変ぜず、竜|首《こうべ》を俯《
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