小生《せうせい》は兄《あに》さんに候《そろ》如斯《かくのごと》きもの幾年《いくねん》厭《あ》きしともなく綾瀬《あやせ》に遠《とほざ》かり候《そろ》後《のち》は浅草公園《あさくさこうえん》の共同《きようどう》腰掛《こしかけ》に凭《もた》れて眼《め》の前を行交《ゆきか》ふ男女《なんによ》の年配《ねんぱい》、風体《ふうてい》によりて夫々《それ/″\》の身の上を推測《おしはか》るに、例《れい》の織《お》るが如《ごと》くなれば心《こゝろ》甚《はなは》だ忙《いそが》はしけれど南無《なむ》や大慈《たいじ》大悲《たいひ》のこれ程《ほど》なる消遣《なぐさみ》のありとは覚《おぼ》えず無縁《むえん》も有縁《うえん》の物語を作り得《え》て独《ひと》り窃《ひそか》にほゝゑまれたる事に候《そろ》。御覧《ごらん》よ、まだあの小父《おぢ》さんが居《ゐ》るよと小守娘《こもりむすめ》の指を差し候《そろ》によれば其《その》時の小生《せうせい》は小父《おぢ》さんに候《そろ》。猶《なほ》こゝに附記《ふき》すべき要件《えうけん》有之《これあり》兄《あに》さんの帰りは必ずよその家《いへ》に飲めもせぬ一抔の熱燗《あつかん》を呼び候《
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