れぬ橋手前の菊菱《きくびし》おあいにくでござりまするという雪江を二時が三時でもと待ち受けアラと驚く縁の附際《つけぎわ》こちらからのように憑《もた》せた首尾電光石火早いところを雪江がお霜に誇ればお霜はほんとと口を明いてあきるること曲亭流《きょくていりゅう》をもってせば半※[#「日+向」、第3水準1−85−25]《はんとき》ばかりとにかく大事ない顔なれど潰《つぶ》されたうらみを言って言って言いまくろうと俊雄の跡をつけねらい、それでもあなたは済みまするか、済まぬ済まぬ真実済まぬ、きっと済みませぬか、きっと済みませぬ、その済まぬは誰へでござります、先祖の助六さまへ、何でござんすと振り上げてぶつ真似のお霜の手を俊雄は執《と》らえこれではなお済むまいと恋は追い追い下へ落ちてついにふたりが水と魚との交《なか》を隔て脈ある間はどちらからも血を吐かせて雪江が見て下されと紐鎖《ぱちん》へ打たせた山村の定紋負けてはいぬとお霜が櫛《くし》へ蒔絵《まきえ》した日をもう千秋楽と俊雄は幕を切り元木の冬吉へ再び焼けついた腐れ縁燃え盛る噂に雪江お霜は顔見合わせ鼠繻珍《ねずみしゅちん》の煙草入れを奥歯で噛んで畳の上敷きへ投《ほう》りつけさては村様か目が足りなんだとそのあくる日の髪結いにまで当り散らし欺《だま》されて啼《な》く月夜烏《つきよがらす》まよわぬことと触れ廻りしより村様の村はむら気のむら、三十前から綱《つな》では行かぬ恐ろしの腕と戻橋《もどりばし》の狂言以来かげの仇名《あだな》を小百合《さゆり》と呼ばれあれと言えばうなずかぬ者のない名代《なだい》の色悪《いろあく》変ると言うは世より心不めでたし不めでたし



底本:「日本の文学 77 名作集(一)」中央公論社
   1970(昭和45)年7月5日初版発行
   1971(昭和46)年4月30日再版
初出:「かくれんぼ」春陽堂
   1891(明治24)年7月
入力:川山隆
校正:土屋隆
2007年2月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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