たでもあるまいものが、あわぬ詮索《せんさく》に日を消すより極楽は瞼《まぶた》の合うた一時とその能とするところは呑むなり酔うなり眠《ねぶ》るなり自堕落は馴れるに早くいつまでも血気|熾《さか》んとわれから信用を剥《は》いで除《の》けたままの皮どうなるものかと沈着《おちつ》きいたるがさて朝夕《ちょうせき》をともにするとなればおのおのの心易立てから襤褸《ぼろ》が現われ俊雄はようやく冬吉のくどいに飽いて抱えの小露が曙染《あけぼのぞ》めを出の座敷に着る雛鶯《ひなうぐいす》欲のないところを聞きたしと待ちたりしが深間《ふかま》ありとのことより離れたる旦那を前年度の穴填《あなう》めしばし袂を返させんと冬吉がその客筋へからまり天か命か家を俊雄に預けて熱海《あたみ》へ出向いたる留守を幸いの優曇華《うどんげ》、機乗ずべしとそっと小露へエジソン氏の労を煩わせば姉さんにしかられまするは初手《しょて》の口|青皇《せいこう》令を司《つかさ》どれば厭でも開く鉢《はち》の梅殺生禁断の制礼がかえって漁者の惑いを募らせ曳く網のたび重なれば阿漕浦《あこぎがうら》に真珠を獲《え》て言うなお前言うまいあなたの安全器を据《す》えつけ発火の予防も施しありしに疵《きず》もつ足は冬吉が帰りて後一層目に立ち小露が先月からのお約束と出た跡尾花屋からかかりしを冬吉は断り発音《はついん》はモシの二字をもって俊雄に向い白状なされと不意の糺弾《きゅうだん》俊雄はぎょッとしたれど横へそらせてかくなる上はぜひもなし白状致します私母は正《まさ》しく女とわざと手を突いて言うを、ええその口がと畳|叩《たた》いて小露をどうなさるとそもやわたしが馴れそめの始終を冒頭に置いての責道具ハテわけもない濡衣《ぬれぎぬ》椀の白魚《しらお》もむしって食うそれがし鰈《かれい》たりとも骨湯《こつゆ》は頂かぬと往時権現様得意の逃支度冗談ではござりませぬとその夜冬吉が金輪奈落《こんりんならく》の底尽きぬ腹立ちただいまと小露が座敷戻りの挨拶《あいさつ》も長坂橋《ちょうはんきょう》の張飛《ちょうひ》睨んだばかりの勢いに小露は顫え上りそれから明けても三国割拠お互いに気まずく笑い声はお隣のおばさんにも下し賜わらず長火鉢の前の噛楊子《かみようじ》ちょっと聞けば悪くないらしけれど気がついて見れば見られぬ紅脂白粉《べにおしろい》の花の裏路今までさのみでもなく思いし冬吉の眉毛の蝕
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